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クラッシュ Clash ★★★

L.A.で起こった2日間をあるクラッシュ(自動車事故)を発端に、関わる人々をまるで鎖を手繰り寄せていくように描いた群像劇。

今やアメリカ国内であっても、「人種差別」というものはタブーとされ、建前上は平等が当たり前かのようになっている。しかしそれは、表面化していないだけで、本当はそれぞれの心の隅でモヤモヤと“くすぶっている”のだ。それに文字通り“油”を注いだのが「クラッシュ」であり、人々が思わず口にする“差別用語”という炎となって表面化するのだ。炎と化した言葉は、それこそ人種の“区別なく”
牙をむき、吐くものと吐かれるものの両方を傷つける。しかしそんな人々の心の中にも“葛藤”とい名の“人間愛”があるのも事実で、“差別”とは、実に割り切れないものなのだと痛感させられた。


10年前にN.Y.にいったとき、ただの旅人である私たちに「黒人には気をつけろ」と必要以上に諭してきた白人のおじさんがいた。彼は心底、私たちを心配していっているように思えた。「48時間」をはじめ、エディマフィの主演映画が真っ盛りのあの頃、もはや白人と黒人の間に差はさほどないものと信じきっていた私は、異なる事実に直面して衝撃をうけた。

その数年後、こんどはL.A.の高級ホテルSで黒人のタクシー白タク運転手が白人のホテルマンに賄賂を渡しているのを目撃した。すっかり不信感を抱いた私たちは、ショッピングモールからホテルに帰る際、ちょっと陰気な黒人の運転するタクシーを拾った。ところが、行き(陽気な中国人のタクシー運転手)と道が違う。すかさず「道が違うんだけど」と鉄格子の入ったガラス越しに文句をいうと、「だったら行きが間違ってたのさ」といわれた。半信半疑のままホテルについてみたら彼がいう通り、行きより帰りの方が料金が安かった。私たちはそこで初めて、彼のいったことを“信じた”のだ。

そういういくつかのリアルな体験がある私でさえ、「人種差別」というものの実態を本当の意味では理解できていない。ほとんどのアメリカ映画の中で、黒人と白人は、たいがい肩を並べて仕事をしたり活躍したりしているから、アメリカにいったことがない人であれば、それが現実だと思い込んでいる人は少なくないはず。そう思った。

そんな体験をする度に「人種差別」についての捉え方を変遷してきた私は、この「映画」を観て、またしても、その捉え方の甘さを痛感した。

by kanai_77 | 2006-07-30 14:34 | カ行  

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